サザーランドの法則とは?OpenFOAMでも使われる気体の粘性係数モデルを解説

CFD(数値流体解析)やOpenFOAMを学び始めると、サザーランドの法則(Sutherland’s Law)という言葉を目にする機会があります。

例えば、OpenFOAMで空気の物性値を設定する場合、粘性係数を一定値として与えるだけでなく、温度によって変化するモデルとしてサザーランドの法則を利用できます。

しかし、「サザーランドの法則とは何か」「なぜこのような式になるのか」「サザーランド温度とは何を意味しているのか」まで詳しく解説している資料はあまり多くありません。

この記事では、サザーランドの法則の概要、数式の意味、各係数の役割、OpenFOAMでの利用方法について解説します。次回の記事では、1893年にWilliam Sutherlandが発表した原著論文をもとに、式がどのように導かれたのかを詳しく見ていきます。

サザーランドの法則とは

サザーランドの法則は、気体の粘性係数が温度によってどのように変化するかを表す式です。

1893年にオーストラリアの物理学者 William Sutherland によって提案され、分子運動論と分子間力を組み合わせて導かれました。
サザーランドの法則は、完全に理論だけから決まる式というよりも、理論的な考察をもとにしながら、係数を実験値に合わせて決定する半経験式として考えると分かりやすいです。
空気や窒素など多くの気体では、常温付近から高温域まで比較的よく実験値と一致するため、現在でも多くのCFDソフトウェアで採用されています。

OpenFOAMをはじめ、ANSYS FluentやSTAR-CCM+などでも、圧縮性流れや熱流体解析では標準的な粘性係数モデルの一つとして利用されています。

なぜ気体の粘性係数は温度によって変化するのか

粘性とは、流体内部で運動量を伝える性質です。
気体では、分子がランダムに飛び回りながら互いに衝突しています。温度が高くなると、気体分子の平均速度が大きくなります。
分子の速度が大きくなると、分子が運ぶ運動量も大きくなります。その結果、気体では温度が上がるほど粘性係数が大きくなる傾向があります。
これは液体とは逆の傾向です。液体では温度が上がると粘性が小さくなることが多いですが、気体では温度が上がると粘性係数が大きくなります。

気体分子運動論では、分子の平均速度は温度に対して次のような関係になります。

\begin{align*} v \propto \sqrt{T} \end{align*}

ここで、$v$ は分子の代表的な速度、$T$ は絶対温度です。
つまり、温度が高くなると分子の運動が激しくなり、分子による運動量輸送が大きくなります。
ただし、実際の気体では分子同士に引力や斥力が存在します。そのため、単純に $\sqrt{T}$ だけに比例するモデルでは、実験結果を十分に表すことができません。

この分子間力の影響を取り入れたものが、サザーランドの法則です。

サザーランドの法則の式

サザーランドの法則は、一般的に次式で表されます。

\begin{align*} \mu = \mu_{\mathrm{ref}} \left( \frac{T}{T_{\mathrm{ref}}} \right)^{\frac{3}{2}} \frac{T_{\mathrm{ref}}+S} {T+S} \end{align*}

ここで、各記号は以下の意味を持ちます。

  • $\mu$:温度 $T$ における粘性係数 [Pa・s]
  • $\mu_{\mathrm{ref}}$:基準温度での粘性係数 [Pa・s]
  • $T$:絶対温度 [K]
  • $T_{\mathrm{ref}}$:基準温度 [K]
  • $S$:サザーランド温度 [K]

この式は、基準温度 $T_{\mathrm{ref}}$ における粘性係数 $\mu_{\mathrm{ref}}$ をもとに、任意の温度 $T$ における粘性係数 $\mu$ を求めるための式です。

式を見ると、温度依存性は大きく2つの部分に分けられます。

  • $\left(T/T_{\mathrm{ref}}\right)^{3/2}$:分子運動による温度依存性
  • $(T_{\mathrm{ref}}+S)/(T+S)$:分子間力による補正

つまり、サザーランドの法則は「分子の運動が温度とともに大きくなる効果」と「分子間力による補正」を組み合わせた式と見ることができます。

別の表現

文献やソフトウェアによっては、サザーランドの法則が次のような形式で表されることもあります。

\begin{align*} \mu = \frac{C_1 T^{\frac{3}{2}}} {T+S} \end{align*}

ここで、$C_1$ はサザーランド係数と呼ばれる定数です。
先ほどの基準温度を用いた式と比較すると、$C_1$ は次のように表されます。

\begin{align*} C_1 = \frac{ \mu_{\mathrm{ref}} \left( T_{\mathrm{ref}}+S \right) } { T_{\mathrm{ref}}^{\frac{3}{2}} } \end{align*}

したがって、次の2つの式は数学的には同じ意味を持っています。

\begin{align*} \mu = \mu_{\mathrm{ref}} \left( \frac{T}{T_{\mathrm{ref}}} \right)^{\frac{3}{2}} \frac{T_{\mathrm{ref}}+S} {T+S} \end{align*}

\begin{align*} \mu = \frac{C_1 T^{\frac{3}{2}}} {T+S} \end{align*}

違いは、基準温度と基準粘性係数を使って表すか、あらかじめまとめた係数 $C_1$ を使って表すかです。

サザーランド温度とは

サザーランド温度 $S$ は、分子間力の影響を表すパラメータです。
名前に「温度」と付いていますが、実際の気体の温度を表しているわけではありません。
分子同士の引力や斥力の影響を数式の中に取り込むために導入された定数であり、気体ごとに異なる値を持ちます。
サザーランド温度 $S$ があることで、単純な分子運動論だけでは表せない実在気体の粘性係数の温度依存性を、より実験値に近い形で表すことができます。

例えば空気では、$S=110.4\ \mathrm{K}$ がよく使われます。一方で、水蒸気、窒素、酸素、ヘリウムなどでは、それぞれ異なるサザーランド温度が使われます。

空気のサザーランド係数

空気に対してよく用いられるサザーランド係数は、以下の通りです。

気体$\mu_{\mathrm{ref}}$ [Pa・s]$T_{\mathrm{ref}}$ [K]$S$ [K]$C_1$
空気$1.716 \times 10^{-5}$$273.15$$110.4$$1.458 \times 10^{-6}$

これらの値を利用することで、任意の温度における空気の粘性係数を計算できます。

例えば、$T=300\ \mathrm{K}$ における空気の粘性係数を求める場合、次のように計算できます。

\begin{align*} \mu = 1.716 \times 10^{-5} \left( \frac{300}{273.15} \right)^{\frac{3}{2}} \frac{273.15+110.4} {300+110.4} \end{align*}

計算すると、

\begin{align*} \mu \approx 1.85 \times 10^{-5}\ \mathrm{Pa \cdot s} \end{align*}

となります。
このように、サザーランドの法則を用いると、温度に応じた粘性係数を簡単に計算できます。

なぜサザーランドの法則がCFDでよく使われるのか

CFDでは、流体の物性値をどのように扱うかが解析結果に影響します。
特に、温度変化を伴う流れでは、粘性係数を一定値として扱うと、実際の現象からずれる場合があります。
例えば、加熱された空気の流れ、自然対流、圧縮性流れ、高温ガス、冷却を伴う流れなどでは、温度によって粘性係数が変化します。
サザーランドの法則は、式が比較的シンプルで計算コストが小さいにもかかわらず、空気などの気体に対して実験値をよく再現できます。

そのため、CFDでは「粘性係数を温度依存で扱いたいが、あまり複雑なモデルにはしたくない」という場合に非常に使いやすいモデルです。

OpenFOAMではどのように利用されるのか

OpenFOAMでは、圧縮性流れや熱流体解析を中心に、サザーランドの法則を利用して粘性係数を温度から計算できます。

例えば、transportモデルとしてSutherland transport modelを指定すると、各セルの温度から粘性係数が自動的に計算されます。

設定例は以下のようになります。

ここで、As はサザーランド係数 $C_1$、Ts はサザーランド温度 $S$ に対応しています。
つまり、OpenFOAM内部では次の形で粘性係数が計算されます。

\begin{align*} \mu = \frac{A_s T^{\frac{3}{2}}} {T+T_s} \end{align*}

ここで、$A_s$ がサザーランド係数、$T_s$ がサザーランド温度です。

解析中は温度場が更新されるたびに粘性係数も更新されるため、自然対流や高温流れ、加熱・冷却を伴う問題でも、より現実に近い物性値を用いた解析が可能になります。
ただし、OpenFOAMはFoundation版、OpenCFD版、またバージョンによって設定ファイルの書き方が異なる場合があります。

そのため、実際に使用する場合は、自分が使っているOpenFOAMのバージョンのチュートリアルやドキュメントを確認することが重要です。

一定粘性係数との違い

粘性係数を一定値として扱う場合、解析中のどの場所でも同じ粘性係数が使われます。

例えば、空気の粘性係数として常温付近の値だけを使う場合、次のように考えます。

\begin{align*} \mu = 1.8 \times 10^{-5}\ \mathrm{Pa \cdot s} \end{align*}

このような扱いは、温度変化が小さい流れでは十分な場合があります。
一方で、温度差が大きい問題では、粘性係数を一定とすると、実際の粘性変化を無視することになります。
サザーランドの法則を用いると、温度 $T$ に応じて粘性係数 $\mu$ が変化するため、高温部と低温部で異なる粘性係数を持つ解析ができます。

そのため、温度差が大きい熱流体解析では、一定粘性係数よりもサザーランドの法則を使った方が物理的に自然です。

サザーランドの法則を使うときの注意点

サザーランドの法則は便利なモデルですが、どのような条件でも使える万能な式ではありません。
サザーランドの法則は、主に希薄でない通常の気体に対して、一定の温度範囲でよく成り立つモデルです。極端な高温、低温、高圧、化学反応を伴う流れ、多成分混合気体などでは、より詳細な物性モデルが必要になる場合があります。

また、サザーランドの法則は気体の粘性係数に対するモデルであり、液体の粘性係数には通常そのまま使いません。

液体では、温度が上がると粘性が下がることが多く、気体とは温度依存性の傾向が異なります。

まとめ

  • サザーランドの法則は、気体の粘性係数の温度依存性を表すモデルである。
  • 気体では温度が高くなるほど粘性係数は大きくなる。
  • 分子運動論だけではなく、分子間力の影響も考慮している。
  • サザーランド温度 $S$ は、分子間力の影響を表すパラメータである。
  • 空気では $S=110.4\ \mathrm{K}$ が広く利用されている。
  • OpenFOAMではSutherland transport modelとして利用できる。
  • 温度差が大きい熱流体解析では、一定粘性係数よりも物理的に自然な扱いができる。

この記事では、サザーランドの法則の概要、式の意味、係数、OpenFOAMでの利用方法について解説しました。

次回は、1893年にWilliam Sutherlandが発表した原著論文を読みながら、なぜ $T^{3/2}$ や $T+S$ が現れるのか、そしてサザーランド温度 $S$ がどのような考え方から導入されるのかを、数式の展開を追いながら詳しく解説します。

参考文献

  • W. Sutherland, “LII. The viscosity of gases and molecular force,” Philosophical Magazine Series 5, Vol. 36, Issue 223, pp. 507–531, 1893.
  • OpenFOAM User Guide / thermophysical models