OpenFOAM

【第4回OpenFOAM熱流体解析】マネキン周りの熱流体解析(k-ωSST乱流モデル、ふく射モデル無し)

こんにちは(@t_kun_kamakiri

本記事ではOpenFOAMを用いた熱流体解析の設定手順について解説を行います。
具体的には自然対流下でのマネキン周りの熱量を計算し、対流熱伝達と熱ふく射における影響度を調べることを目的とします。

今回は、前回の記事で解析した乱流モデルなしのシミュレーション結果をベースに乱流モデル($k$-$\omega$SST)での結果を示します。

マネキン周りの熱流体解析(乱流モデル無し)

マネキン周りの熱流体解析(乱流モデル$k$-$\omega$SST)

そんなに流れも速くないので乱流モデルがあってもあまり見た目は変わりませんね。

 

こんな人を対象
  • OpenFOAMを用いて流体解析を勉強している人
  • OpenFOAMで熱流体解析(ふく射込み)を試したい人

本記事では本計算をするのではなく、まずはひな形を作るため、とりあえず計算できるところまでを行います。

そのため、

  • メッシュはそこまでこだわらない(前回のまま)
  • 乱流モデルk-ωSST乱流モデル
  • ふく射モデル無し

とします。

OpenFOAM v2412(WSL Ubuntu 22.04)

フォルダ構成の確認

フォルダ構成は以下のようにしています。

解析用フォルダを作成します。

次に、メッシュ情報ごとコピーします。

メッシュ状態を念のため確認しておきます。
ParaViewを起動してpost.foam(空ファイル)を読みこむことで確認ができます。

解析設定

物性値

空気

  • モル質量:$28.9\,\text{mol}/\text{g}$
  • 定圧比熱:$1000\,\text{J}/\text{kg}\text{K}$
  • 粘性係数:$1.73\times 10^{-5}\,\text{Pa}\cdot\text{s}$
  • プラントル数:$0.7211$

理想気体として扱います。

constant/thermophysicalProperties

重力

重力は$y$軸の負方向に設定します。

constant/g

乱流モデル

乱流モデルは$k$-$\omega$SSTに設定します。

constant/turbulenceProperties

ふく射モデル

ふく射モデルは今回使用しません。
次回以降でふく射モデルを設定します。

使用しているチュートリアルはfvDOMモデルのふく射設定ですが、
radiationModel  none;//fvDOM;とすることでふく射を考慮しない設定になります。

ふく射モデルは以下のように6タイプあります。

radiationProperties

放射率、吸収率、透過率などはconstant/boundaryRadiationPropertiesで設定しますが、こちらはふく射モデル用の設定ファイルなので今回は使用しません。

constant/boundaryRadiationProperties

境界条件

境界条件で使用するファイルは0/U, 0/T, 0/p_rgh, 0/p, 0/k, 0/omega, 0/nut, 0/alphatです。
p_rghは静圧から流体質量による圧力分を差し引いた量$p_{rgh}=p-rgh$なので、0/p0/p_rghから計算され設定にします。

まずは流速の設定

0/U

続いて温度の設定。

0/T

続いて圧力の設定。

0/p_rgh

圧力はp_rghから計算されるようにtype calculated;としておきます。

0/p

ここからが乱流モデルを設定したことによるファイル設定の部分です。

$k$は乱流運動エネルギーです。
$k=\frac{1}{2}(IU)^2$のように乱流強さを$0.3%$に定義しています。
一様場(初期状態)としては、一定速度が$U=0.27\text{}/\text{s}$なので、$k=\frac{1}{2}(0.3\times 10^{-2} 0.27)^2=9.1225\times 10^{-5}$としています。

ただし、turbulentIntensityKineticEnergyInletで乱流強さだけを設定すれば良し、定常解析なので初期状態にはあまり依存しないのでシビアに考えすぎなくても良いでしょう。

0/k

比散逸率$\omega$は$\omega=\frac{k^{0.25}}{C_{\mu}L}$より乱流エネルギー$k$と混合長さスケール$L=0.07H$(縦方向の長さ$H=2.46$)から計算します。

0/omega

渦粘性係数$\nu_{t}$は乱流エネルギーと比散逸率$\omega$が決まれば、$\nu_{t}=\frac{k}{\omega}$より計算する設定にします。

0/nut

最後に乱流プラントル数$Pr_t$を設定します。
乱流状態の場合の乱流プラントス数はおおむね$0.7~0.9$くらいですので、今回は$0.85$に設定します。

0/alphat

離散化スキーム

離散化スキームはチュートリアルをそのまま使用します。

対流項スキームは1次精度風上差分div(phi,U) bounded Gauss upwind; なので、数値的安定ではありますが、数値拡散をしやすいスキームです。
ラプラシアンのスキームはdefault Gauss linear corrected;非直交性考慮、非直交補正ありで設定されています。

system/fvSchemes

必要に応じて設定を変えると良いでしょう。

代数ソルバの設定

代数ソルバでは行列計算の設定、収束判定条件、不足緩和係数の設定を行います。
今回は収束判定の数値が大きすぎると、温度分布が定常になっていないのに残差は収束しきったとして計算が打ち切られてしまうことがあったので、residualControlの値は1桁(あるいは2桁)小さくしておきます。

system/fvSolution

計算制御の設定

タイムステップ数やfunction objectsの設定を行います。
タイムステップ数は定常になるまでを設定しておきます。

function objectsはいつも最低限以下を設定しています。

  • 連続式の誤差
  • 残差
  • $y^{+}$
  • 体積流量
system/controlDict

並列計算

チュートリアルに並列計算用の設定ファイルがない場合は適当なチュートリアルからコピーしてきます。

$FOAM_TUTORIALS = /usr/lib/openfoam/openfoam2412/tutorials

今回は適当の4分割にして4並列で計算を実行します。

system/decomposeParDict

計算実行

乱流モデルとふく射モデルは今回使用しないためファイルを一時避難させておきます。

では、並列計算の実行します。

計算は数分で終わると思います。

結果の可視化

ParaViewで結果を確認します。

連続式の誤差

残差

温度分布も安定しており、連続式の誤差や残差が収束していますね。

まとめ

本記事ではOpenFOAMを用いてマネキンモデルまわり熱流体解析を乱流モデルありで行いました。

次回は、乱流モデルの設定$k$-$\omega$SSTの設定に加えてふく射モデルを考慮した解析を行います。より実際の環境に近い条件での解析を行う予定です。

先行文献では、複数の乱流モデルでの比較を行った結果、$k$-$\omega$SSTの乱流モデルがマネキン周りの熱流束の実験値と一番近いモデルだったと示されています。

どのような乱流モデルが一番適しているかは見ている現象にもよりますが、本記事では先行文献にならって$k$-$\omega$SSTを使用しています。

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