OpenFOAM

【第5回OpenFOAM熱流体解析】マネキン周りの熱流体解析(熱伝達率と熱流束の出力)

こんにちは(@t_kun_kamakiri

本記事ではOpenFOAMを用いた熱流体解析の設定手順について解説を行います。
具体的には自然対流下でのマネキン周りの熱量を計算し、対流熱伝達と熱ふく射における影響度を調べることを目的とします。

今回は、前回の記事で作成した乱流モデル($k$-$\omega$SST)の結果を使って熱流束と熱伝達率を出力する設定を加えたい思います。

マネキン周りの熱流体解析(乱流モデル$k$-$\omega$SST)

本記事では前回の記事で作成したモデルをベースにして以下の結果を出力します。

  • 熱伝達率
  • 熱流束
こんな人を対象
  • OpenFOAMを用いて流体解析を勉強している人
  • 熱伝達率と熱流束の出力をしたい人
  • OpenFOAMで熱流体解析(ふく射込み)を試したい人

本記事では出てきた結果に対する妥当性の検証は行わず、とりあえず計算できるひな形のモデルを作成することを目的としています。

  • メッシュはそこまでこだわらない(前回のまま)
  • 乱流モデルk-ωSST乱流モデル
  • ふく射モデル無し

とします。

OpenFOAM v2412(WSL Ubuntu 22.04)

フォルダ構成の確認

フォルダ構成は以下のようにしています。

解析用フォルダを作成します。

  • 物性値
  • 乱流モデル($k$-$\omega$SST)
  • ふく射モデル(設定なし)
  • 境界条件
  • 離散化スキーム
  • 代数ソルバ

これらは前回の記事で設定しているものを使うため、ここでは解説をしません。

出力の設定

結果の出力はfunction objectsに熱伝達率と熱流束の設定を追加します。
なので出力設定は以下になります。

  • 連続式の誤差
  • 残差
  • $y^{+}$
  • 体積流量
  • 熱伝達率👈追加
  • 熱流束👈追加
system/controlDict

熱伝達率

熱伝達率はheatTransferCoeffで設定しています。
熱伝達率の定義は3つあります。

ReynoldsAnalogy: レイノルズ類推

\begin{align*}
h = 0.5 \rho_{\infty} C_{p,\infty} |U_{\infty}| C_f
\end{align*}

localReferenceTemperature: 局所基準温度

\begin{align*}
h = \frac{\dot{q}}{T_c – T_w}
\end{align*}

fixedReferenceTemperature: 固定基準温度

\begin{align*}
h = \frac{\dot{q}}{T_c – T_{\text{ref}}}
\end{align*}

モデル 特徴  適用範囲
ReynoldsAnalogy 摩擦係数を利用し、乱流流れに適用 境界層流れ、航空機・車両の外部流れ、強制対流
localReferenceTemperature 局所温度を基準にする 内部流れ(管流れ)、自由対流、局所温度変化が重要な場合
fixedReferenceTemperature 固定温度を基準にする 熱交換器、設計基準の統一、比較用

今回はfixedReferenceTemperatureを使用しています。

熱流束

熱流束はwallHeatFluxで設定しています。
最低限の設定だけを行っています。
基本的に境界条件がtype wall(壁条件)のものは、出力されるのですべて設定する場合は特に壁面の境界名を指定する必要はありません。

writeControl    writeTime;としていますが、ファイル(U, T, p_rgh, …など)と同じタイミング(

writeInterval   100;)で結果を出力されるので都合が良いためこのようにしています。

計算実行

乱流モデルとふく射モデルは今回使用しないためファイルを一時避難させておきます。

では、並列計算の実行します。

計算は数分で終わると思います。

結果の可視化

ParaViewで結果を確認します。

連続式の誤差

残差

温度分布も安定しており、連続式の誤差や残差が収束していますね。

熱伝達率と熱流束の可視化

ParaViewで確認ができます。

熱流束のデータ

postProcessing/wallHeatFlux1/0/wallHeatFlux.datに以下のように各ステップでの壁面条件の熱流束の最小値(min)、最大値(max)、積分値(integral)が出力されています。

積分された単位時間当たりの熱量$\dot{Q}$から各部位の面積$A$で割れば、熱流束$\dot{q}=\frac{\dot{Q}}{A}$が求まります。

熱流束の分布を確認する場合は、ParaView確認ができます。

先行論文と比較してみると熱流束の値が小さいようです。
本記事での流体解析の結果は対流のなので、先行論文のaと比較することになります。

違いと言えば先行論文のマネキンは$34^{\circ}$Cですが、本記事での設定はvalue uniform 309.15;なので$34^{\circ}$Cです。
人の体温で$34^{\circ}$Cというのは低いと思いますが、先行論文のマネキンの温度は実測に近い温度にしたという実験的な都合がありそうです。

熱伝達率のデータ

熱伝達率の分布はParaViewで確認することができます。

fixedReferenceTemperature: 固定基準温度

\begin{align*}
h = \frac{\dot{q}}{T_c – T_{\text{ref}}}
\end{align*}

  • $T_c$:マネキン表面温度
  • $ T_{\text{ref}}=298.15$:参照温度

熱伝達率に関しては物性値ではなく、流れによって決まるため、このように流体解析を行って決定される量なのでやっかいですよね。

まとめ

本記事ではOpenFOAMを用いてマネキンモデルまわり熱流体解析を乱流モデルありで行い、さらに熱流束と熱伝達率を出力する設定を加えました。

次回は、乱流モデルの設定$k$-$\omega$SSTの設定に加えてふく射モデルを考慮した解析を行います。より実際の環境に近い条件での解析を行う予定です。

先行文献では、複数の乱流モデルでの比較を行った結果、$k$-$\omega$SSTの乱流モデルがマネキン周りの熱流束の実験値と一番近いモデルだったと示されています。

どのような乱流モデルが一番適しているかは見ている現象にもよりますが、本記事では先行文献にならって$k$-$\omega$SSTを使用しています。

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